飛行機雲と世界の果て

知っていたんだ

あの空の向こうに
とても大きな飛行機雲が広がっていたことは

世界に果てになんかないけれど
そこに行ったことのある人の話を聞いては
いつも胸をはずませて、夢にみていた

いつもいつも憧れていた

そんな果ての果てにいつか行ってみたいと思っては
海に向かって小石を投げていたんだ

石はどこまでもどこまでも遠くまで飛んでいった

本当にどこまでだって飛んでいったんだ

きっと地の果ての小さな小さな村に、
たどりついたんだ

ぼくはそう思うことにしていた

石を拾った村人は
それを神様の落し物だと思って
それはそれは大切に扱ったんだ

雨の日も風の日も

石と一緒に

石があればみんな幸せだったんだ

いつかたどりつくはずだった世界の果ては
やっぱりなくて

それからぼくは、小さな河のほとりで、
ちょこんとした可愛らしい少女と恋に落ちたんだ

少女はぼくにましゅまろの話をしてくれた

甘くてやわらかくて
とけてしまいそうな
そんな話

それから少女は魚になって
河に帰ってしまった

ぼくはましゅまろの話を胸にしまって
やっぱり見てみたい世界の果てに
向かって歩き出したら

いつのまにか空は一面飛行機雲に覆われていた

いくつもの線が交差して、
それはそれは優雅に曲がりくねっていた

幻をみていたわけではないけれど
空の広さと優雅さがどうしようもなくて

世界の果てのことなんて
どうでもよくなってしまったんだ

それからぼくは飛行機雲を売って生活をした

みんな喜んで買ってくれるから
お金なんてもらうのが申し訳なくて

気がついたら一文無しだった

それを見かねた青年が
ましゅまろと神様の関係を教えてくれた

そうしたらとっても幸せな気持ちになって
それからというものお金に困ることは
なくなったんだ

だから今でもただで飛行機雲を売っている
みんな喜んでくれるしお腹もいっぱいだ

そしてふと思い出したように
世界の果てに行ったという話をしては
みんなの胸を弾ませているんだ

魚の女の子と一緒に

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