無人島

青い空 青い海 森は緑だ。

ぼくはそんな世界の中生きている。
彼女は言った「そろそろ出掛けましょうよ。」

出掛ける。

どこへ行こうというのか。
それはもちろん、助けを求めに、なのだが。

ぼくらはおよそ2週間前、この無人島に流れ着いた。

船に乗って、南の島へ行く途中、ぼくらは突然の嵐に巻き込まれ遭難した。
一緒に船に乗っていた他の人たちはどうしてしまったのか分からない。
ただ、ぼくら2人は、この無人島に流れ着いたのだった。

幸い島には木の実が豊富で、飲み水もあった。
ぼくらは椰子の実やココナッツ、パイナップル等を食べ、
飢えを凌いだ。

正確には凌いだ、のではない、おなかいっぱい食べたのだった。
気候は暖かく、夜でも寒さを感じることなく眠ることが出来た。
日が昇れば暑くなるが、海で泳いでいれば気持ち良い。
そしておなかがすいたら木の実を食べれば良い。
日が暮れたら眠れば良いんだ。

だからぼくらは、すぐに助けを求めに行くことも忘れ、ただなんとなく
この島に居座ってしまっていたのだった。

でも、いつまでもこうしている訳にはいかない。
そろそろ助けを求めにいかなくっちゃいけない。

だけどどうして助けを求めるんだろう。
ぼくは、正直何も困っていない。食べる物もあるし住む場所だってある。
と言っても家がある訳ではなく、どこで寝ていたって怒られないという
だけなのだけれど。

そんなことを考えていた。

「やっぱり、ぼくらは助けを求めに行かなきゃいけないのかな?」

助けを求めに出かけようと言った彼女にぼくはそう問いかけた。

彼女もまたぼくと一緒に2週間も何もせずにいたんだ、
彼女もこの島を快適に思っているんじゃないだろうか。

「そうね、たぶん、そうしなきゃいけないんだと思う。」

ぼくらはそんな彼女の一言を手がかりに、重い腰を上げ、
助けを求めに行くことにしたのだった。

助けはすぐに見つかった。
なぜならぼくらは島の反対側に集落があることを
薄々気づいていたからだ。

ぼくらは集落に入り、事情を説明し、助けを求めた。
彼らは親切にぼくらを世話してくれた。

食事をご馳走になり、眠るための部屋まで用意してくれた。
そして、翌日、船で大陸まで送ってくれることになった。

ぼくらはあまり嬉しい気持ちにはなれなかったのだけれど、
精一杯喜んで、精一杯に彼らの好意を受けた。

その夜、ぼくは彼女に話しかけた。

「本当に、これで良いのかな?」

彼女は言った。

「うん、良くないけど、仕方ないのよ。」

仕方ない。

何が仕方ないのか。
なぜ良くないのにこの島から出ようとするのか。

きっとそれは彼女だって分かって
言っている言葉ではないんじゃないだろうか。

翌日、ぼくらは島の人にお礼を言い、島を離れた。

そしてぼくらは、遭難する前と同じ、いつもと同じ
日常に戻ることが出来た。

何一つ不自由の無い世界。
そんな日常に。

ただ、なぜか時折、何かに助けを求めたくなる。
何も助けてもらうことなんてないのに。

それからしばらくして、ぼくはようやく彼女を誘う決心が出来た。
しばらく、と言っても海で遭難してからかれこれもう10年が経っていた。

彼女は、ぼくの突然の訪問にも驚くことなくほほえんでくれた。
そしてぼくは言った、「そろそろ出掛けないか?」

彼女は言った。

「そうね、そろそろ出掛けましょうか。」

そしてぼくらは助けを求めた。

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