地底人とミステリーサークルに関する考察

こんなことをしているよりも、
ミステリーサークルをつくった方ましだ。

男はそう思って大学を辞めた。

大学の授業なんか受けているよりも、
一刻も早くミステリーサークルをつくった方が良いと、
それこそが自分のやるべきことだと、
男はそう気付いたのだった。

しかし大学を辞めてみたものの、
男にはなかなかミステリーサークルの
つくりかたは分からなかった。

ミステリーサークルをつくることに諦めかけ、
日々1人暮らしのアパートで怠惰な生活を送っていた
そんなある時、男はポストに入っていた「絶対儲かる!!」
という一枚のチラシが目についた。

男は「これだ!」と思い悪徳商法の道へ足を
踏み入れるのであった。

男は瞬く間にその道で頭角を現し、
それから3年後には男のその仕事はあまりにも
成功したために、伝説化される程になり、
その世界に噂を轟かせ、数多くの人間を踏みにじり、
巨万の富を手に入れていた。

そんな折り、男は悪徳商法の勧誘をキッカケに、
東大卒で美人で大富豪の娘と出会う。
若い2人はやがて恋に落ち、まもなく同棲を始めた。

毎日が幸せだった。

ミステリーサークルはつくれなかったけど、
多くの人間を踏みにじって来たけれど、
彼女と一緒にいられて男は幸せだった。

男は彼女と一緒にいられるだけで満足だった。

「足を洗おう」男はそう決めた。

こんなことをしていては駄目だ、
彼女がそう思わせてくれたのだった。

まもなく男は悪徳商法の道からキッパリと足を洗った。

そして彼女と一緒にまさに今から幸せな日々を築いて
いこうとしたその時、彼女は男の全財産を持って、
いなくなったのだった。

悪徳商法で築いた巨万の富も、
気付いた時には全て彼女のものとなっていた。
彼女は巧妙な詐欺師だったのだ。

男は全てを失い、再び一人暮らしのアパートで
怠惰な生活を送ることになった。

人生って一体何なのだろう。
自分には結局何も出来はしないのか。

男は来る日も来る日もそんな考えても
仕方のないようなことを考えていた。

なにもかもがどうでもよくなり、
気が付くと男は富士の樹海へと向かっていた。

そうだ、富士の樹海へ行こう。

それが男が思いついた惟一つの思いだった。

男は覚悟を決め、樹海の奥へ奥へと進んでいった、
と、その時、男は自らの霊能力に目覚めるのであった。

そして、その目覚めた霊能力の力によって男は
徳川埋蔵金の在処を知ることになる。

男は馬鹿な考えを捨て、
そのまま徳川埋蔵金の在処へと向かった。

男には自信があった。
誰が何と言おうとここに埋まっている。

そう確信出来る程の霊能力に男は目覚めていたのだ。

男は来る日も来る日も穴を掘り続けた。
睡眠と食事と排泄の時間以外はとにかく
穴を掘り続けた。

そうして1ヶ月も過ぎると、
男はようやくあと100メートルも掘れば
埋蔵金を掘り当てることが出来ると確信
出来るところまで掘り進めることが出来た。

埋蔵金はすぐそこだ。

ミステリーサークルはつくれなかったけど、
悪徳商法はイカサマだったけど、
愛した人には裏切られたけれど、

自分には埋蔵金がある。

この埋蔵金さえ掘り当てれば。
自分には埋蔵金があるじゃないか。

そう思って男は今まで来る日も来る日も
無我夢中で埋蔵金を掘り続けて来たのだ。

そしていよいよ埋蔵金を掘り当てようとしたその時、
一体何が起こったのか、もの凄い轟音とともに、
男は自分の掘った穴の中に飲み込まれていったのだった。

男は目を覚ますと見知らぬ家の見知らぬベッドの上にいた。
見知らぬ女の子も顔をのぞき込んでいる。

「良かった、気が付いたみたいね」

女の子はそう言ってニコニコとしていた。

混乱しながらも女の子に事情を聞くと、
なんとここは地底で自分たちは地底人だという。

男はどうやら地上で大規模なガス爆発に巻き込まれ、
その拍子に地底との境目を突き破り、地底に落ちて
来たのではないかという話だった。

男は悪くないと思った。

徳川埋蔵金は手に入らなかったけど、
自分には地底がある、なぜかそう思えた。

体力が回復すると、男はたびたびその女の子と
遊びに出かけるようになった。

地上に戻る術は誰も知らないし、
戻るつもりも無かったけれど、
男は毎日楽しく過ごしていた。

いつものようにその女の子と一緒に遊びに出かけたある時、
男は女の子にふと「どうして穴なんか掘っていたの?」
と聞かれた。

「ミステリーサークルをつくりたかったからかな」

男はなんとなくそう応えた。

すると女の子はミステリーサークルのつくり方なら
知っているという。

「ほら、こうするの」と言いながらその女の子は
いとも簡単にミステリーサークルをつくってみせた。

男も女の子を真似して同じようにやってみると、
やっぱり同じようにミステリーサークルができた
のだった。

男は「ありがとうありがとう」と
涙を流して女の子に感謝した。

彼女はその時なぜ男がそんなに喜んでいるのかよく分から
なかったが、男が喜んでくれるのが嬉しくて、一緒に喜んだ。

それから男は狂ったように
ミステリーサークルをつくり続けた。

地底の世界では、ミステリーサークルをつくることは
良い行いとされていて、来る日も来る日もミステリー
サークルをつくり続ける男に、世間は賞賛の眼差しを
送った。

やがて男はその地底人の女の子と結婚し、
2人でミステリーサークルをつくるようになった。

地底人の女の子は、良い行いとはいえ、
毎日毎日ミステリーサークルをつくり続けることの
意味を理解できずにいた。

けれどミステリーサークルをつくると男が喜んでくれるので、
女の子も喜んで一緒にミステリーサークルをつくり続けた。

そして2人は仲良くミステリーサークルをつくり続け、
それはそれは2人幸せな生活を送ったということです。

めでたしめでたし。

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